Humankind 希望の歴史 | 読書メモ#5
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Sep 4, 2021
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上巻まとめ
人間の本質は善である
- 第二次大戦下、人々はどう行動したか
- ロンドン大空襲時、空襲で破壊されたデパートが、「営業中。本日あから入り口を拡張しました」とユーモアあふれるポスターを提示した
- 人々の士気の低下を示す証拠は見られなかった
- ヒトラー、チャーチル、ルーズベルト、リンデマン。この全員が、人間の文明的な暮らしぶりは表面的なものに過ぎないというギュスターヴ・ル・ボンの主張を信じ、空襲によってこの脆いカバーを吹き飛ばせると確信したが、爆撃すればするほど、カバーは頑丈になった。
- 新しい現実主義
- デラウェア大学の災害研究センターは1963年以降、700件近くのフィールドワークを行い、映画でよく描かれるのとは逆に、災害時に大規模な混乱は起こらないことを明らかにした。
- これを飲んだら病気になると思いながら偽薬を飲んだら、本当に病気になるかもしれない。この薬には重大な副作用があると患者に警告したらおそらく現実にそうなるだろう。これはノセボ効果と呼ばれるが、明白な理由から広く試されてはこなかった。健康的な人を病気にしたり、副作用を感じさせたりするのは、倫理的に間違っているからだ。
- 人々は、ニュースは心を成長させると教わって育った新聞を読み、夕方のニュースを見るのは、市民としての義務であり、ニュースを追えば追うほど、人は情報が豊かになり、民主主義はより健全になる、と教わった。今でも親は子供にそう教えている。しかし、科学者は異なる結論を出した。多くの研究によると、ニュースはメンタルヘルスに危険を及ぼすのだ。
- mean world syndrome = マスメディアの暴力的なコンテンツに繰り返しさらされたせいで、世界を実際より危険だと信じ込んでしまうこと。
- 人はなぜ、ニュースが伝える破滅や憂鬱さに影響されやすいのか
- negativity bias
- 人は良いことよりも悪いことの方敏感だ。狩猟採集の時代に戻れば、クモやヘビを100回怖がった方が、一回しか怖がらないより身のためになった。人は怖がり過ぎても死なないが、恐れ知らずだと死ぬ可能性が高くなる。
- availability bias(利用可能生ヒューリスティック)
ニュースを見るには、私たちは理性が足りない
(ナシム・ニコラス・タレブ)
- 本当の「蠅の王」
- 無人島を舞台に少年たちの残虐さを描いてノーベル文学賞を獲得した「蝿の王」は真実ではない
- 真実の「蝿の王」は火を打ち、鶏舎、菜園、ジムも作った。そして1年以上生き延びて生還した。
- 心理学者のブライアン・ギブソンは最近の研究で「蝿の王」タイプのテレビ番組を見ると、人はより攻撃的になり得ることを明らかにした。実のところ、子どもの頃に暴力的な映像を多く見たことと、大人になってからの攻撃性との相関は、アスベストとガン、あるいはカルシウム摂取量と骨量との相関より強いのである。
- リアリティ番組を多く見る少女は、意地悪と嘘をつくことは人生で成功するために必要だ、と答えガチがることがわかっている
文化に関する物語は、確かに人間の行動に影響する
(ジョージ・ガーブナー)
- 自然の状態
- ホッブズとルソーの正反対の見方はこの社会の最も深い分裂の源になっている。
- 選ぶべきは、厳しい処罰か、手厚い福祉か。少年感下院か、芸術学校か。トップダウンの経営か、権限を持つチームか。一家の稼ぎ手としての父親か、育児に熱心なパパか。あなたが思いつくほぼ全ての議論が、元をたどればホッブズとルソーの対立にさかのぼる。
万人の万人に対する闘争
- 混乱を抑制し、平和な社会を築くことは可能だ。私たち全員が、自由を放棄すれば良いのだ。すなわち、体と心を、ただ一人の君主に委ねるのである。=リヴァイアサン
- 呪われた文明社会が誕生して以来、物事は間違った方向に進み始めた、とルソーは主張する。農業、都市化、国家ーそれらは人間を混沌から救い出すどころか、人間を奴隷にし、破滅へと向かわせた。
- 「わたしに権力を与えなさい、さもなければ全てを失うことになる」<=> 「わたしたちに自由を与えよ。さもなければ、すべてを失うことになる」
- 今なお、ホッブズとルソーの影響は驚異的だ。保守主義、進歩主義、現実主義、理想主義、以上全てのグループの起源を辿れば、ホッブズかルソーに行き着く。理想主義者がより多くの自由と平等を提唱するたび、ルソーは満足げに微笑む。一方そんなことをしたらより多くの暴力を招くだけだと皮肉やが嘆くたびに、ホッブズが力強く頷く。
- ホモ・パピーの台頭
- 人間とバナナはDNAの60%が同じで、人間と牛は80%が同じだ。そして、チンパンジーとは99%が同じなのだ。
- チンパンジーとオランウータンは、ほぼ全ての認知テストで、二歳の子どもと同等の点数を示したが、社会的学習に関しては幼児が楽勝する。結局のところ人間は超社会的な学習機械であり、学び、結びつき、遊ぶように生まれついているのだ。だとすれば、赤面するのが人間特有の反応なのは、それほど奇妙なことでもないだろう。顔を赤らめるのは、本質的には社会的な感情表現だ。他人の考えを気にかけていることを示し、信頼を育み、協力を可能にする。
- エンロンのCEO、ジェフリースキリングは「利己的な遺伝子」を読んで、エンロンを貪欲さのメカニズムによって運営しようとした
- 社員の業績を評価するために「rank and yank 」システムを取り入れた。このシステムがもたらしたのは、社員が激しく競いあうホッブズ流の社風だった。
- 現在でも米国の大企業の60%は何らかの形のrank and yankシステムを最長している。
- マーシャル大佐と銃を撃たない兵士たち
- 人間は社会的動物だが、致命的な欠陥がある。それは、自分によく似ている人々により強い親近感を抱くことだ。
- オキシトシンは人間をより優しく穏やかで、のんびりした気性にすると考えられていたが、2010年にアムステルダム大学の研究者たちが、オキシトシンの影響はグループ内に限られるらしいことを発見した。このホルモンは友人に対する愛情を高めるだけでなく、見知らぬ人に対する嫌悪を強める。つまりオキシトシンは、普遍的な友情の燃料ではなく、身内びいきの源だったのだ。
- マーシャル大佐は最初は太平洋戦線で、次にはヨーロッパの戦場で、兵士たちとグループインタビューを重ねるにつれて、戦場で銃を打ったことのある兵士は全体の15〜25%しかいないことを知った。
この戦争では、人道上許される場合は、誰もが誰かを撃ち損なった
(ジョージオーウェル)- 近年、マーシャル大佐が出した結論を支持する専門家が続々と現れている。その一人が社会学者のランドル・コリンズで、彼は戦闘中の兵士の写真を何百枚も分析して、銃を発砲したのは13~18%に過ぎないと、マーシャルの見積もりと大差ない結論を出した。「最も一般的な証拠から断定して、ホッブズが考えた人間像は間違っている。」とコリンズは断定する。「人間は生来、団結するようにできており、それが暴力を振るうことを難しくしている」
- 文明の呪い
- いつから人類は戦争を始めたのか
- 最終氷期が終わったのと同じ頃に、最初の戦争が起きた。考古学的研究により、人間が定住を始めた時期に最初の軍事要塞が築かれたことがわかっている。なぜそうなったのか?
- 土地を始め、争いの原因になるものを人間が所有するようになったこと
- 定住するようになった人間が見知らぬ人に対して不信感を抱くようになった
- ルソーは文明の進歩という概念を認めなかった。人間が一箇所に落ち着いた時から全ては崩壊し始めた、と彼は考えており、現代の考古学的証拠もそう語っている。
- 定住生活は、特に女性に重い負担を課した。私有財産と農業の始まりは原始のフェミニズムの時代を終わらせた。定住生活により家父長制度が誕生した。
- なぜ人間は、狩猟採集という気楽で健康的な生活を捨てて、農耕民としての苦しく難儀な生活を選んだのだろう
- 土地があまりにも魅力的だった
- 祖先たちに予測できなかったのは、人間の数がいかに増えるかということだった。
- 国家の本質を最もよく表しているのは、万里の長城だ。
- 文明かは悪だと決めつける理由はない、私たちは誰もが恩恵を受ける新たな方法で都市や国家を組織することを選択できる。文明の呪いは解くことができるのだ。
- 文明化はいいアイデアだったのだろうか?判断するのはまだ早い。
- 「スタンフォード監獄実験」は本当か
- ロバーズ・ケーブ実験は品行方正な少年たちが、ほんの数日で「邪悪で、心が荒んだ、乱暴な子どもの集団になることを示した。
- しかし、実験に先立ってシェリフは「現実的葛藤理論」を立証しようとしていたことが判明した。
- ロバーズ・ケーブ実験もスタンフォード監獄実験も実験者による介入があったことが判明した
- BBCが再現実験を行うも、結果は何もしない看守の映像が取れたのみだった。
- 「ミルグラムの電気ショック実験」は本当か
- 生徒が本当に苦しんでいると思っていたのは被験者の56%にしか過ぎなかった。また、電気ショックが本当と思った人の大半は、スイッチを押すのをやめていた。
- それでも押した人は?善意のためであった。
- 悪事を行わせるには、それを善行であるかのように偽装しなければならない。地獄への道は、偽りの善意で舗装されているのだ。
- アイヒマンは自分は歴史的な偉業を成し遂げたのであり、後の世代に賞賛されるはずだと信じ切っていた。その新年ゆえに彼は、怪物にもロボットにもならず同調者になった。
- 電気ショック実験は、命令への服従に関する実験ではなかった。同調性に関する実験だったのだ。
- ミルグラムの実験を調査した結果、あるパターンが見つかった。実験を止めることができた被験者は三つの戦略を用いていた。
- 生徒役に話しかける
- 実験助手に責任を思い出させる
- 続けることを繰り返し拒む
下巻まとめ
- 共感はいかにして人の目を欺くか
- 1944年の初め、科学者たちを悩ませる一つの謎があった。それは、ドイツ兵はなぜ懸命に戦い続けるのか、なぜ敗北を認めて降参しようとしないのか、というものだ。
- 多くの心理学者は軍隊の戦闘能力を決める上で、愛国深夜、自分が選んだ政党への忠誠心などのイデオロギーが他の要素より際立っていると固く信じていた。
- アメリカの心理戦部門のモーリスは数週間にわたって、ドイツ人捕虜を次々に面談した。そして耳にしたのは似たような言葉だった。それはナチのイデオロギーではなかった。また、彼らはドイツは勝てるという幻想を抱いていなかった。洗脳されてもいなかった。ドイツ軍の人間離れした戦闘を可能にしたのは、友情であった。
- モーリスが面談した何百人ものドイツ人が戦い続けたのは、ナチスの基本思想である「千年帝国」や「血と土」のためではなく、戦友を救うためだったのだ。
- 米国のシークレットサービスが盗聴した4000人ほどのドイツ人捕虜の筆記録によって明らかになったのは、ドイツ人がきわめて「軍人らしい気質」を備え、忠誠心や仲間意識や自己犠牲といった特質を、高く評価していたことだ。一方で、ユダヤ人排斥感情やイデオロギーの純粋さは、小さな役割しか果たさなかった。あるドイツ人歴史家は次のように記している。「フォート・ハントの盗聴記録によると、イデオロギーは、ドイツ国防軍のほとんどのメンバーの意識において従属的な役割を果たしたにすぎない」
- 史上最悪の虐殺へ駆り立てたのは友情だった
- モーリス・ジャノヴィッツが明らかにしたのは、悪の起源は、堕落した悪人のサディスティックな性癖ではなく、勇敢な兵士の団結だった。第二次世界大戦は勇壮な戦いであり、友情と忠誠心と団結、すなわち人間の最善の性質が、何百という普通の男たちを、史上最悪の虐殺へと駆り立てたのだ。
- 心理学者ロイ・バウマイスターは、敵は悪意に満ちたサディストだという誤った思い込みを「純粋悪という神話」と呼ぶ。実のところ、敵はわたしたちと何も変わらないのである。
- 赤ん坊を研究する心理学者、ポールブルームによると、共感は世界を照らす情けない深い太陽ではない。それはスポットライトでありサーチライトなのだ。共感は、あなたの人生に関わりのある特定の人や集団だけに光を当てる。そして、あなたは、その光に照らされた人や集団の感情を吸い取るのに忙しくなり、世界の他の部分が見えなくなる。
- ブルームによると、共感できる相手は、救い難いほど限られている。共感は身近な人に対して持つ感情である。
- ブルームの本を読むと、共感は何よりもニュースに似ていることに気づく。(=スポットライトのように機能する)
- 一つ確かなことがある。それは、より良い世界は、より多くの共感から始まる訳ではないということだ。むしろ、共感は私たちの寛大さを損なう。なぜなら、犠牲者に共感するほど、敵をひとまとめに「敵」と見なすようになるからだ。選ばれた少数に明るいスポットをあてることで、私たちは敵の観点に立つことができなくなる。少数を注視すると、その他大勢は視界に入らなくなる。
- では、過去1万年間の数億人ものの戦争犠牲者をどう説明すればいいのだろうか。彼らはどのようにして死んだのか?この問いに答えるには、法医学的な検査が必要とされる。例として第二次世界大戦で亡くなったイギリス人兵士の死因を見てみる
- その他1%
- 化学攻撃2%
- 爆風、圧死2%
- 地雷、ブービートラップ(罠)10%
- 銃弾、対戦車地雷原10%
- 追撃砲、手榴弾、空爆、砲弾75%
- これらの犠牲者を結びつける要素があるとしたら、それはほとんどが遠隔操作によって殺されてたということだ。兵士の圧倒的多数は、ボタンを押したか、爆弾を落としたか、地雷をしかけた者によって殺された。
- 武器は戦争の主要な問題である、「人間は根本的に暴力を嫌悪すること」を解決する方向へと進化してきた。(短剣→弓矢、手榴弾→空爆)
- 相手の目を見ながら、その人を殺すことは、事実上不可能だ。私たちの大半は、牛肉を食べるには自分で牛を殺さなければならないとしたら、即座に菜食主義になるだろう。同様に、多くの兵士は、敵に近づきすぎると、良心的兵役拒否者になる。
- 権力はいかにして腐敗するか
- 権力について書こうとすると、避けてはならない名前がある。それは「君主論」を書いたマキャベリである。
- 応用マキャヴェリズムの第一人者である、カリフォルニア大学の社会心理学者ダッカー・ケルトナーは90年代に権力にまつわる心理学に興味を持つようになったとき、二つのことに気づいた
- ほとんどの人がマキャベリは正しいと信じていたこと
- それを裏付ける研究を行なった人がほとんどいなかったこと
- 彼は「自然状態」実験と自ら名付けた実験で、寄宿舎からサマーキャンプまで、人間が支配権を自由に競い合う一連の状況に潜入した。人々が初めて出会うそうした場所でこそ、マキャベリの時を超えた知恵が発揮されると期待したからだ。
- だが、「君主論」の指示通りに振る舞う人はキャンプからたちまち追い出されることに、彼は気づいた。旧石器時代と同様に、こうした小社会は傲慢さを許さない。最も友好な人が生き残るのだ。
- ケルトナーは人が権力を得るとどうなるかについても研究した。そして、先の結論とは異なる結論に達した。
- 「クッキーモンスター研究」
- 権力は麻酔薬のような働きをして、人を他者に対して鈍感にするらしい。
- 権力の影響の一つは、他者を否定的に見るようになることだ。権力者はこう考えている可能性が高い—大半の人は怠け者で信頼できない。従って彼らは、監督、監視、管理、検閲され、するべきことを命令されなければならない —。加えて、権力は優越感を感じさせるので、権力者はこうした監視はすべて自分に委ねられるべきだと考えるだろう。
- 「権力のパラドクス」: 数十の研究によると、私たちは最も控えめで優しい人をリーダーに選ぶ。しかし頂点に立って権力を手にすると、その人はのぼせあがって、結局、リーダーの座を追われることになるのだ。
- 「マキャベリの記述は、すべてそのままチンパンジーの行動に当てはまりそうだ」(生物学者フランス・ドゥ・ヴァール)
- 資本主義社会では、「貢献」がよく語られる。しかし社会に最も貢献する人をどうやって決めれば良いのだろう。それは銀行家か、あるいはごみ収集作業員か。看護師か、それとも、「破壊者」と呼ばれる革新的な新興起業家か。自分の貢献について語る物語が素晴らしいほど、その人の取り分が多くなり。実のところ、文明の進化は、自らの特権を正当化する新たな方法を編み出し続けた支配者の歴史、と見なすことができるだろう。
- 通常、私たちの社会的ネットワークは150人ほどで構成される。
- 150人いれば盛大なパーティを開くには十分だが、ピラミットを築いたり、月にロケットを送ったりするには到底足りない。そこで作り話によって、会ったことのない人との繋がりを想像することを学んだ。
- 作り話の最もわかりやすい例は神である。
- 私たちはよいリーダーを持ちたいと願うが、その望みが打ち砕かれることがあまりにも多い。ケルトナーによると、その理由は、優しく親切な人だから、とリーダーに選ばれても、権力のせいでそれらの美徳を失うか、あるいは本来そうした美徳を備えていないかのどちらかだ。階層的な社会では、マキャベリ主義者が勝つ。なぜなら、彼らはライバルを打ち負かす究極の秘密兵器を持っているからだ。それは「恥を知らないこと」だ。
- 現代の民主主義社会において、恥を知らないことはその人にとってプラスに働く。羞恥心に邪魔されない政治家は、他人があえてしようとしないことを、堂々と行うことができる。
- 啓蒙主義が取り違えたもの
- 人間は、「わたしたち」と「彼ら」の観点から考える傾向が極めて強い。戦争の悲劇性は、人間の最良の要素である忠誠心、仲間意識、連帯感が、人間に武器を取らせることにある。
- 人間が一箇所に定住し、私有財産を蓄えるようになった時から、集団本能は無害ではなくなった。資源が限られていることと階層性とが結びついて、それは急に毒を帯び始めた。そして、ひとたびリーダーが軍隊を育てて思い通りに動かすようになると、権力の腐敗は歯止めがきかなくなった。
- 農民と戦士、都市と国家からなるこのあたらしい世界で、私たちは他者への共感と外国人恐怖症との板挟みになり、多くは自らの集団への帰属意識を優先して、アウトサイダーを排斥した。この世界でリーダーの命令に背くのは難しかった。たとえ、その命令が私たちに歴史上の間違った問題を歩ませることになるとしても。
- 歴史書はイスラエル人とローマ人、フン族とバンダル族、カトリックとプロテスタント、その他多くの集団による大虐殺を無数に記録している。名称は変わっても、メカニズムは同じだ。すなわち、仲間意識に駆り立てられ、冷血なリーダーに扇動されて、人間は互いに対して残忍極まりないことをするのだ。
- 17世紀初頭、現在「啓蒙主義」と呼ばれるものが始まった。それは哲学的な革命であり、啓蒙思想家は、法の支配から民主主義、教育、科学まで、現代の世界の基礎を築いた。
- トマス・ホッブズのような啓蒙思想家は当時の司祭や牧師とあまり変わらないように見える。いずれも人間の本性は堕落しているという前提に基づいて活動した。スコットランドの啓蒙思想家デビット・ヒュームの「人は皆自分の利益しか考えない悪人とみなされるべき」だと言う言葉は啓蒙主義の人間観を一言で表している。
- 共感でも感情でも信念でもなく、理性。啓蒙主義の思想家が唯一信頼したのは理性、つまり合理的な思考だった。
- 啓蒙思想家が肯定した罪があるとしたら、それは貪欲さだ。彼らはそれを「私悪すなわち公益」と言うモットーのもとに喧伝した。このモットーは、個人レベルでは反社会的な行動が、全体としては社会に利益をもたらす、という独創的な概念を示したものだ。
- よく知られるとおりアダムスミスは次のように書いた「私たちが食事を期待できるのは肉屋や酒屋やパン屋の善意ゆえではなく、彼らが自らの利益を追求するからである。(相手の協力を得るには)相手の人間性にではなく利己心に訴え、自分が何を必要としているかではなく、相手にとって何が得になるかを説明した方が良い」
- 利己心は抑制するのではなく、解放するべきだ、と近代の経済学者たちは主張した。こうして、富への欲望は、全世界の人々を一つにまとめた。スーパーマーケットで食料品の代金を支払う時、私たちは、ショッピングカートに入れた物の生産や流通に貢献した数千人の人の人々と協業している。この働きの全ては善意からではなく、自分のためなのだ。
- 啓蒙思想家は同じ原理を用いて、現代の民主主義モデルを補強した。合衆国憲法は、人間の本性である利己心は抑制されなければならないという悲劇的な見方を前提とする。
- あらゆることを考慮すると、啓蒙主義は人類にとって勝利であり、資本主義、民主主義、法による支配をもたらしたと言わざるを得ない。統計の数字は明らかだ。
- 啓蒙主義は私たちに平等をもたらしたが、人種差別主義も発明した、と歴史学者は指摘する。
- ヒュームは人間の本性は利己的で「あるかのように」私たちは行動すべきだと考えていた。
- 新たなリアリズム
- 「哲学について学んだり考えたりするときには、何が事実で、その事実が裏付けられる真実は何であるかだけを自分に問いなさい。自分が信じたいと思うもの、あるいはそれを信じたら社会に良い影響があると思えるものに惹かれることなく、事実だけを見なさい」(ラッセル)
- ピグマリオン効果(<=>ゴーレム効果)
- プラセボ効果と似ているが、自分にではなく、他者に利益をもたらす。
- 50年たった今でも、ピグマリオン効果は心理学研究における重要な知見であり続けている。
- ゴーレム効果についてはあまり研究されていない。被験者を否定的な予想に晒すのは倫理的に問題があるため。
- 多元的無知
- 多元的無知の影響は時として悲惨で、致命的でさえある。飲酒について考えてみよう。大学生の大半は、人事不省になるほどの飲酒は好きではないと言うはずだ。しかし、他の学生は飲酒が大好きだ、と思い込んでいるので、自分もそれに合わせようとして、結局道端に吐くことになる。
- 研究者はこの種のネガティブな連鎖が人種差別、集団レイプ、名誉殺人、テロリストや独裁政権の支援、さらには大虐殺などの深い社会悪の要因になることを示すデータを、大量に蓄積してきた。結局のところ、「ホモパピー」に苦手なことがある1つあるとしたら、それは集団に抵抗することだ。私たちは、どれほど惨めな思いをしてでも、恥をかくことや、社会で居心地の悪い思いをすることを避けようとする。
- →人間の本性についてのネガティブな見方は、多元的無知の一形態ではないのだろうか
- 内なるモチベーションの力
- 20世紀初頭、経営学が誕生した時代において、経営学は、人は生来、強欲だというホッブズ的な人間観に基づいていた。(ex. テイラーの経営学)
- 興味深いのは、20世紀の2つの主要なイデオロギーである資本主義と共産主義が、この人間観を共有していたことだ資本主義者も共産主義者も、人を向上させるには2つの方法しかない、それはにんじんと棍棒だ、と語る資本主義者がにんじん(つまり、金)に頼る一方、共産主義者は主に棍棒(つまり罰)に頼った。両者はあらゆる点で異なったが、同意できる1つの基本的前提があった。人は放っておくと、やる気にならない、と言うものだ。
- ヨス・デ・ブロークのマネジメント
- 「ものごとを難しくするのは、簡単だが、ものごとを簡単にするのは難しい」
- モチベーションについての見方を反転させたアメリカの心理学者エドワード・デシは、問うべきは、どうやって他者をやる気にさせるではなく、どうすれば人が自らやる気になる社会を形成できるかだと考えた。この問いは、保守的でも急進的でもなく、資本主義的でも共産主義的でもない。そして、その答えは新たな動き、新たなリアリズムを語っている。「そうしたいからする」人々ほど強力なものはない。
- ホモルーデンス
- 社会全体が信頼に基づいていればどうなるか。
- これほど大きな方向転換をするには、最初から始めなければならない。子どもから始める必要があるだろう。しかし、この数十年間、子どもたちの内発的動機は、組織的に抑えられてきた。
- どこを見ても子供の自由は限られている。1961年には、英国の七歳と八歳の子供の80%は、自分で歩いて学校に通っていた。現在そうしているのは10%だ。
- いじめはしばしば、人間の本質的な癖とみなされ、子どのなら誰でもすると考えられている。それは間違いだ、と、いじめが蔓延する場所を広範に調査してきた社会学者たちはいう。彼らはそれらの場所を「total institution」と呼ぶ。
- 全員が同じ場所に住み、ただ一つの権威の支配下にある。
- 全ての活動が共同で行われ、全員が同じタスクに取り組む。
- 活動のスケジュールは、多くの場合、1時間ごとに厳格に決められている。
- 権威者に課される、明確で形式張ったルールのシステムがある
- いうまでもなく、上記の究極の例は刑務所で、そこにはいじめが蔓延っている。
- 「学校とは、社会は今のままでいいとあなたに信じさせる広告代理店だ」(イヴァン・イリイチ)
- 問うべきは、子供は自由をうまく扱うことができるか、ではない。わたしたちは子どもに自由を与える勇気を持っているか、である。
- 民主主義はこんなふうに見える
- 世界の民主主義は少なくとも7つの問題に苦しめられている。徐々に腐敗する政党、互いを信頼しない市民、排除される少数派、政治への関心を失った有権者、堕落した政治家、税金を逃れる金持ち、そして、近代民主主義は不平等だという認識の高まり、である。
- トレスはこれらの問題全てを解決する策を見つけた→権力をトレスの住民に譲り渡すというものである。
- 冷笑から参加へ
- 両極化から信頼へ
- 除外から受け入れへ
- 満足から市民権へ
- 汚職から透明性へ
- 利己主義から連帯感へ
- 不平等から尊厳へ
- コモンズ(共有財産)
- テロリストとお茶を飲む
- リゾートみたいな刑務所(ハルデン刑務所)
- 憎しみ、不正、偏見を防ぐ最善策
- ゴードン・オールポートは生涯を通じて、次の二つの基本的な疑問を追求した。
- 偏見はどこから生まれるのか?
- 偏見を防ぐにはどうすれば良いか?
- 数年に及ぶ探究の後、彼が発見した治療法は「交流」だった。=「接触仮説」
- 1900年以来の抵抗運動について巨大なデータベースを作成したアメリカの社会学者チェノウェスの研究によると、暴力に頼る抵抗運動が26%だったのに対して、非暴力の運動は50%以上が成功していた、
- 兵士が塹壕から出るとき
- 誰もが覚えておくべきは、他の人々も自分たちと変わらないということだ。テレビで怒りを爆発させている有権者も、統計上の難民も、顔写真で見る犯罪者も全て血の通った人間であり、もし人生の軌道が違っていたら、私たちの友人、家族、恋人であったかもしれない。あるイギリス兵はそれに気づいてこう言った。「彼らも、家には愛する家族がいる」
- エピローグ
- 「もしあなたが、女性を誘拐して5年間ラジエーターに鎖でつなぐ男の映画を作ったら— おそらくそんなことは歴史上一度しか起きていないだろうが、—それは社会を現実的に分析した映画だと、褒めそやされる。しかし、『ラブ・アクチュアリー』のように、恋に落ちる人々を描く映画を作ったら、今日の英国ではおよそ100万人が恋に落ちているにも関わらず、非現実的な世界を感傷的に描いた映画だと言われるだろう」(リチャード・カーティス)
- 人生の指針10
- 疑いを抱いたときには、最善を想定しよう
- win-winのシナリオで考えよう
- 最善のシナリオは、すべての人が勝者になるものである
- もっとたくさん質問しよう
- 自分がしてもらいたいと思うことを他人にしてはいけない。その人の好みが自分と同じとは限らないからだ(ジョージ・バーナード・ショー
- 共感を抑え思いやりの心を育てよう
- 他人を理解するよう努めよう。たとえその人に同意できなくても。
- 他の人が自らを愛するように、あなたも自らを愛そう
- ニュースを避けよう
- ナチスを叩かない
- クローゼットから出よう。善行を恥じてはならな
- 現実主義になろう