BRAIN DRIVEN | 読書メモ#2
date
May 14, 2021
slug
brain-driven
status
Published
tags
Book
summary
type
Post
まとめ
モチベーション
そもそも、モチベーションとは何か?
- メタ認知は、「自分自身を、客観視、俯瞰視」した認知の状態である。自分自身のことを主観的に捉えるだけでなく、客観的に捉えてみよう、一面的に捉えるだけでなく俯瞰的に捉えようというのがメタ認知の基本的な役割である。
- 自分に意識的に注意を向けない限り、自分の脳に自分の情報が書き込まれないのである。さらに自分のことはよくわかっているという錯覚から、ほとんどの人は意識的に自分を見ようとしない。
- メタ認知の本質的な意義は、自分のことを客観的に、俯瞰的に見ることで、自分自身の脳に自分自身についての情報を書き込み、それによって「自分をもつ」ことなのである。自分の感じ方、考え方、振る舞い方を知れば、自分で感じ、考え、行動する、自律的な脳が育まれるのである。
- 「自分が何をどう感じて、どのように打てているかを説明できたとき、超一流の仲間入りができた」(イチロー)
モチベーション世界の構造的理解
- モチベーションの流れ
- ①原因となるお金的な「刺激」があり (モチベーター)
- ②それを受けて関連する脳や体内の環境が「変化」を催すことによって (モチベーション・メディエーター)
- ③「行動」に移る (モチベーション)
モチベータ=行動を誘引する始点となる間接的な原因
モチベーション・メディエータ=行動を誘引する直接的な体内(脳内)の状態
モチベーション=行動を誘引する直接的な体内(脳内)の状態を認識した状態
- モチベーション・メディエータとモチベーションの違い
- やる気になっている状態と、やる気になっている自分を認知した状態の違いである。前者の、行動を誘引する脳機能と、その状態を認知する後者の脳機能は別なのである
- 自分はモチベーションがないという人がいるが、モチベーションがまったくない状態、すなわちモチベーション・メディエータが発露していない人はほとんどいない。目を向けていない、認知していないだけと言えるだろう
- 他人と自分のモチベーションのあり方は、DNAレベルで異なり、体験による記憶が異なり、脳の配線が異なる限り、大きく異なる可能性が高い
- 人間の行動の解は、ある程度脳の仕組みの中でコントロールされていることがわかってきた。その仕組みとは、ここ5年から10年の神経科学でもっとも注目されているトピックのうちの一つである「報酬回路」と呼ばれる脳のシステムである。しかし、単に報酬回路だけを見ても、モチベーションの全体像は捉えられないことがわかってきた。
- 脳の機能を見ていくと、古くからある脳機能、すなわち脳の下部の構造がモチベーションとして優先されることが多い。だからこそ、たとえば睡眠不足の状況になると、生存のための睡眠が優先され、高次機能を発動させることが非常に難しい状態になる。呼吸や体温が乱れていると、学習や仕事のモチベーションどころではないのである。したがって、脳幹や間脳などでつかさどる機能のコンディションを整えておくことが、学習系や高次脳処理機能系のモチベーションを引き出すためには重要となる。
神経科学的欲求五段階説
- 朝のセロトニン量が多いと、それに比例して夜のメラトニン量が多くなるため、朝に大量のセロトニンをつくることが、夜の良い睡眠につながる
- モチベーションには、トップダウン型とボトムアップ型の2種類がある。
- 五段階説の下部の機能ほどボトムアップ的(無意識に近い状態)で誘発され、上部の機能ほどトップダウン的(意識的)に誘引される
- たとえば「お腹が空いた」「眠い」などはボトムアップ型のモチベーションであり、無意識に誘引される。一方「あれを考えてみよう」「この勉強をしよう」などはトップダウン型のモチベーションで、意識的な誘引が必要となることが多い。
- ボトムアップのモチベーションを抑制し、トップダウンのモチベーションを高めようという考え方が主流だった。それはいまでも有用だが、他の方法も台頭してきた。それは、ボトムアップのモチベーションをトップダウンのモチベーションの栄養に転用する方法だ。
- 空腹によるドーパミン誘導を「勉強」に「意識的に」振り向けることができたとしたら、学習に対するパフォーマンスは高まる。これは、サブリミナル的な実験をしながらドーパミン誘導をすると、実際に記憶定着が高まる結果が得られる研究の応用である。
分子の世界から捉えるモチベーション
- ドーパミンとノルアドレナリンの違い
- どちらも行動を誘引する役割を果たしている。
- ドーパミン: 基本的に「SEEK(探し求める)」するための情動と説明されることが多い。つまり、シグナルや情報に向かわせるときに放出される。ドーパミンが発露すると「βエンドルフィン」が作られやすくなる。このβエンドルフィンは、脳内アヘンと呼ばれる快感物質である。
- ノルアドレナリン: 「FightorFlight(闘争または逃走)」に役割を果たす交感神経と連動して放出されることが多い。戦うときなどに出る「コルチゾール」と呼ばれるストレスホルモンを導きやすい。
- モチベーションを高めて何かに集中したり、パフォーマンスを最大化したりするには「ノルアドレナリンの作用」と「ドーパミンの作用」のどちらも必要になる。戦闘態勢的なノルアドレナリンの作用により、情報に意識を向けることは大切だ。そして同時にドーパミンによってワクワクと意図したものを求める心(脳)の状態にすることで、余計な情報に注意を向かわせないようにすることも大切なのである。
- 何か行動を誘発する要因が出てきたときには、①「もっと行動したい」という快感を生むβエンドルフィン系②「もうやめたい」というストレスを感じるコルチゾール系の二つが拮抗的に働き始める。このバランスが、行動を起こしたときに長続きするか否かを決める指標の一つになっている。
- ユーモアであろうと、論理的思考であろうと、文法であろうと、点数が低い人は自己の見積もりに誤差が生じやすい。つまり、実際よりも自分はできたと見積もる傾向がある。それは、学びが少なければ少ないほど、自己の至らなさを認知していないため、高く見積もる傾向があるということだ。これは人間の自己認知能力の低さとして説明されてきたが、そうではない。未熟なものに対しては自己の能力を高く見積もる仕組みがあるからこそ、新しい学びに対しても積極的にトライすることができるのだ。
モチベーションと痛みの関係
- 苦痛は辛く、投げ出したくなるものだ。それでも、ときには自分で自分を追い込み、その苦痛、辛さを受け入れてみる。すると、苦痛を体感したあとに通常以上の大きな差分が生まれ、大きな喜びを得られる可能性を高める。どうしても挑戦したいこと、やり遂げたいことに関しては、苦痛を感じたときはむしろラッキーな状態と俯瞰視し、耐えることを楽しんでみる。そうすれば、高いパフォーマンスを出しやすくなるかもしれない。
- 苦痛に耐えること、苦痛をたしなむことは、成長を加速させる。自分で決めた苦痛、自分で決めた苦しみは、私たちを強くする。
お金とモチベーションの特殊な関係
- 大人になればなるほどこの価値記憶を伴う快の体験をお金で買える構造に直面する。むしろ、価値記憶化された快の体験を、お金以外のもので代替することはなかなかできない。その意味で、脳にとってお金は非常に特異な刺激物となる。
- 重要なのは、予測差分、期待値差分である。これがドーパミン誘導の基礎である。予想外、または経験したことがない金額が、お金によるドーパミントリガーとなる。
モチベーションをマネジメントする
- 仕事の場合、自分がやってきた過去の経験を参照し「なぜこの仕事をするのか?」「何のために必要なのか?」を考えることが第一歩になる。
- モチベーションを高めるうえでは「自分の脳で決める」のが重要だ。
- 違和感と葛藤はモチベーションの大きな糧となる
- 葛藤状態を経た脳による意思決定能力が培われていないと、自分では何も行動できない人間になり、モチベーションを高めることもできない状態に陥ってしまう。
- もちろん、葛藤は苦しい。私も好きではない。しかし葛藤状態に直面したら、「これを乗り越えれば自分は成長する」と捉えみてほしい。それだけで心持ち、すなわち脳はリラックス状態となり、よりモチベーションが高まりやすい状態になるはずだ。
ストレス
ストレスを分解して考える
- ストレスを深く捉えるためには、「間接的な原因」と「直接的な原因」に分けて考える必要がある。
- 間接的なストレスの原因となる刺激のことを「ストレッサー」と呼ぶ。
- 1つは外部からの刺激がストレスの間接的な原因となる「外刺激由来のストレッサー」
- もう一つは「内刺激由来のストレッサー」。これはたとえば我々が嫌な体験をしてストレス反応を示したのち、そのことを思い返すことで再度ストレスを感じる場合だ。言わば、自分自身で思い返すことなどがストレスの原因になっている状態を指す。
- ストレスの意味や役割
- 受け取った情報がどのような種類のものであるかを伝える役割
- 記憶力を高める役割
- 入ってきた情報に対してストレス反応することは、学習し、脳の中に記憶化させる役割もある
- 「直感力」への影響
- 脳の構造自体は、昔といまでたいして変わらない。その意味で、ストレスは生物が生存確率を高めるために発達した機能と言えるだろう。
ストレスを認識する
- 脳には3つのモードがある
- Default mode network
- 白昼夢のようなぼーっとしている状態
- Central executive network
- 何か思考をしたり、意識的に注意を向けたりするときに働く
- Salience network
- 無意識的かつ勝手に作業してくれるDefault mode networkと、トップダウンで情報処理をしてくれるCentral executive networkを、ダイナミックに切り替える役割を果たすとして重要視されている。
- ストレスがないと言い続けている人のほうが、うつ病になりやすい傾向があると考えられる。ストレスメディエータが体内につくられ、実際にストレス反応をしているのに、それを認知できないからだ。ストレスに気づいていない状態では、ストレスを受けていたとしてもどのように行動すればいいかわからない。
成功の前にあるストレスをパターン学習する
- ストレスを整理、パターン化することで、ストレス反応を学びに変えることができる。だが、ストレス経験をまとめるのは楽しい作業ではない。やりたくないのが普通の反応だと思う。そこを乗り越えるためのちょっとしたコツがある。それは「成功体験のプロセスに潜む失敗やストレス体験」をパターン学習することである
- そもそも人間に、ものごとを最初から成功させる能力は備わっていない。とはいえ「最初からうまくいくはずがない」と理解していても、失敗から生じるストレス反応だけをパターン学習するのは非常に苦しい。だからこそ、最終的な成功体験に関連づけ、失敗や、ストレスを感じた体験をパターン学習させると、脳の中で「ネガティブな失敗やストレスにも意味があった」と捉えられるのだ。
適切なストレス
- 自分がやりたいこと、やろうとしている状態を前提として、やらなければならないタスクから受けているストレス反応であるならば、私たちの注意力や記憶定着効率は高まりやすい
ストレスとうまく付き合うためのヒント
- 自分が悶々としていることを紙に書き出すといいと言われた。それは、その通りである。曖昧で無意識的に降り注いでいたストレッサーが認識されれば、意識的に注意を選択でき、望むストレッサーを選択する確率を高めてくれるからだ
- たとえ嫌々でも、目の前のタスクに取り組むのであれば、取り組む意義や意味を自分で見出すことが必要だ。
- 科学的であれば必ず真であるとする根拠もまったくない。人に関することはとくにそうだ。一人ひとりの人間はまったく違う環境で生まれ、育ってきた。DNAも一人として同じ人はいない。
- 日常的な超俯瞰視としては「今日1日、命があったこと」を毎日心から1分間感謝することなどが考えられる。このような試みは、科学的な視点で説明ができる何千年も前から、宗教で取り入れられている。その日1日を無事に過ごせたことに感謝できる人は、ちょっとしたストレッサーにいちいち過剰に反応しないだろう。そのような脳は、一朝一夕には手に入らない。毎日心を込めてやり続ける人だけに脳のネットワークは宿る。科学的に見ても、脳の強化学習とプラシーボ効果の両面から説明できる。
- 新しい学びのときにモヤモヤするのは当然だ。モヤモヤする感覚があるのは、学習している証拠である。脳内であまり使われていない神経細胞は、その物理的構造が未熟でエネルギー効率が悪い。活用され続けることでミエリン鞘と呼ばれる構造体が太くなり、電気信号の伝導効率を高める
- 心から愛する存在がいると、オキシトシンの量は増える。愛する存在と関わると落ち着く感覚があると思うが、その背景にはオキシトシンがある。愛する人を再認識する、新たにつくることも、ストレスコントロールにとっては効果的だ。
- 世の中には「集中力は15分しかもたない」と言う科学者もいる。しかし、それは15分程度しか集中力がもたない対象に対する時間で、あらゆる対象に当てはまるわけではない。人間は、基本的には何時間も集中できると考えていい。
- セロトニンを誘導する
- 単調リズム性運動に反応して合成される。 (ex. 貧乏ゆすり , 好きな音楽を聴きながらリズムに乗る)
- 単調で、それだけに集中でき、自分が心地よく感じるリズム性の動作を見つけると、セロトニンによって生活にゆとりの時間が広がるかもしれない
- 太陽光にも反応する
- 交感神経をONの神経系とするならば、副交感神経はOFFの神経系だ。
- 交感神経は我々にエネルギーを与え、パフォーマンスを高める。そのため「FightorFlight」の神経系と言われる。日本語にすると「闘争または逃走」である。
- 一方の副交感神経は、我々にエネルギーを蓄えさせ、パフォーマンスを出すための準備をしてくれる。そのため「RestorDigest」の神経系と言われる。日本語にすると「休息または消化」である
クリエイティビティ
クリエイティビティを捉えるための前提と複雑性
- 同じピアニストが同じピアノを弾いても、決められた曲を決められた通りに弾いているときと、何らかのクリエイティブな操作をしているときでは、使われている脳の部位は違うという
人間の脳と人工知能を比較する
- 人工知能はまるで、図書館で該当するテーマの本を次から次へと集めて机で作業する人のようであり、人の脳はまるで、図書館の本棚に向かって該当するテーマに関連しそうな本を手にとっては立ち読みしたり、その本が置かれていた棚の周囲の本に気がとられたりして、なかなか机に戻ってこない人のような情報処理の仕方をする。
- 人工知能と脳は、模倣的な部分はあっても本質的には異質であり、それぞれの強みは異なる。神経科学によって脳の理解が進めば、さらに違いが明らかになるだろう。人類はその強みを最大化していく方向に向かい、人工知能はその強みを人類に還元するよう作用するはずだ。
神経科学の知識でクリエイティビティは高まる
- どうすれば能力を発揮できるかわからないことを、人は積極的にやることはできない
神経科学的にクリエイティビティを捉える
- 学習プロセスに要する時間は、事象によって異なる。ある絵画を見て「こんなの、どこがいいの?」と感じていた人が、いつの間にか「これは素晴らしい絵だ」と感じるようになるための時間は、一瞬ではない。脳の中では、時間軸に伴って価値を判断する記憶が蓄積され、ようやく価値を感じられるようになる。この観点は、神経科学では重要だ
- 創造プロセスと評価プロセスは異なる脳を活用する。
- 主体者がせっかく創造プロセスの脳を活用したとしても、そのプロセスにおいてネガティブなフィードバックばかり受けていたら、創造モチベーションは高まらず、創造プロセスの脳を活用しなくなってしまう。
- クリエイティビティを育むための「マジック」などない。いかにクリエイティビティ脳を活用し続けるか、脳の創造プロセスを活用し続けるか、それらを継続し続けるかがクリエイティビティを高める。重要なのは、他人に低く評価されたからといって、やめないことだ
- クリエイティブ脳を育むポイントの一つとして考えられるのは、ネガティブな他者評価を受け流す能力だ。他者の評価にかかわらず、いかに自分にとって新しく価値あるものを考え続け、生み出し続けるのかが重要なのである。
クリエイティビティを発揮するための大前提
- クリエイティビティは、後天的に学んだことから育まれる
- クリエイティブ脳は主に高次機能系と学習系と呼ばれる大脳新皮質と大脳辺縁系の機能を使う。両者はともに後天的に変化し、神経可塑性の一例とも言える。
- 神経細胞同士は同時に活性化されることで結ばれる。脳の配線(シナプス)を脳の中でどのように形成していくかは、体験や学びのあり方によって変わってくるということだ。どんなに同じような環境にいようが、その環境に対してどのように注意を向けて脳に情報をプロセスさせていくかによって、クリエイティビティを発揮する種として記憶を保持できるかが変わってくる。意識的に同時発火の原則を活用することが、クリエイティビティを育むためには重要になる。
マクロの視点からクリエイティビティを捉える
- 瞑想やマインドフルネス
- 呼吸に集中することに慣れていない人は、ほんの5分程度の間に、いつの間にか呼吸への集中を忘れて「このあと何を食べようかな」「あの人と何をしようかな」などと無意識のうちに考えてしまうものだ。風呂に入って体を洗っているときに余計なことを考え始め、ふと気づくとどの部位を洗ったか覚えていないという経験は誰にでもあるのではないか。これらがマインドワンダリング状態で、デフォルトモード・ネットワークが活性化している状態である。
- 思考にどっぷりと浸ったあとのぼーっとした状態は、クリエイティビティにとっては非常に重要な時間となる
クリエイティビティと言語・非言語の情報処理
- 一般的な教育を受けていると人間の発達が図35のようなU字カーブを描きやすい
- この順序が正しいわけでも、推奨するわけでもない。ただ一般的に世の中の状態を見ると、このような流れになりやすい。だからこそ、この右上の象限、内側の非言語的な脳の情報処理機能ももっと活用できれば、我々の可能性はより開かれるだろう。
クリエイティビティは今からでも高められる
芸術に対する我々の反応は、芸術家が作品を創りだした創造的過程─認知や情動、共感を伴う過程─を自分の脳で再現したいという、やむにやまれぬ衝動から生じる。(中略)芸術家と鑑賞者の双方におけるこのような創造的な衝動はおそらく、芸術は物質的には生存に必須ではないにもかかわらず、あらゆる時代のあらゆる場所において実質的にすべての人類集団が絵画を創ってきた理由を説明してくれるだろう。芸術は、本来的に快楽に満ちたものであり、芸術家と鑑賞者が交流し、人の脳を特徴づける創造的な過程を共有するための有益な努力である。(著:エリック・R・カンデル訳:須田年生、須田ゆり『芸術・無意識・脳』九夏社より引用)