失敗の科学 | 読書メモ#8
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Jul 15, 2022
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読む目的
- 仕事をする上で、失敗はつきもの。その失敗を組織として次に繋げていくためにはどうするか。
- 失敗から学べる組織にするためには個人として何を行えば良いか
- 失敗から学べる組織、学べない組織の違いとは何か
まとめ
第一章 失敗のマネジメント
- ありえない失敗が起きた時に人はどう反応するか
- 航空業界にあって、医療業界にないもの
- 失敗に対する姿勢
- アメリカでは毎年4万4000~9万8000人が、回避可能な医療過誤によって死亡しており、ボーイング747が毎日2機、事故を起こしているようなものである。あるいは、2カ月に1回『9・11事件』が起こっているのに等しい。回避可能な医療過誤がこれだけの頻度で起こっている事実を黙認することは許されない。
- 病院で起こるミスも、どんな業界で起こるミスも、その多くはどうやら一定の「パターン」を辿っている。組織文化そのものにかかわる潜在的な要因である。
- もちろん航空業界の成功には数々の要因があるだろう。技術革新のスピードの速さ。競合の存在、保険のコストなどの商業的インセンティブの存在。高解像度のシミュレーションシステムをはじめとする、効果的な訓練法による恩恵も大きい。しかし、改善の最強の原動力は、彼らの組織文化の奥深くにある「失敗から学ぼうとする姿勢」にある。
- 「完璧な集中」が事故を招く
- 「人の失敗から学びましょう。自分で全部経験するには、人生は短すぎます」(エレノア・ルーズベルト)
- 失敗には特定のパターンがある
- 調査によれば、どのケースでもクルーは時間の感覚を失っていた。集中力は、ある意味恐ろしい能力だ。ひとつのことに集中すると、ほかのことには一切気づけなくなる。
- 何か失敗したときに、「この失敗を調査するために時間を費やす価値はあるだろうか?」と疑問を持つのは間違いだ。時間を費やさなかったせいで失うものは大きい。失敗を見過ごせば、学習も更新もできないのだ
- すべては「仮説」にすぎない
- 科学は常に「仮説」である
- 科学も、失敗から学ぶことが重視される分野のひとつだ。カール・ポパーも、科学は自らの失敗に慎重に応えることにより発展を遂げる、と指摘している。仮説は、実験や観察によって反証される可能性がある。その点において、新たな科学理論は常に脆弱だと言えるだろう。
- 「科学の歴史は、人類のあらゆる思想の歴史と同様、失敗(中略)の歴史である」
- 何にでも当てはまるものは科学ではない
- クローズド・ループ現象のほとんどは、失敗を認めなかったり、言い逃れをしたりすることが原因で起こる。疑似科学の世界では、問題はもっと構造的だ。つまり、故意にしろ偶然にしろ、失敗することが不可能な仕組みになっている。だからこそ理論は完璧に見え、信奉者は虜になる。しかし、あらゆるものが当てはまるということは、何からも学べないことに等しい
- クローズド・ループ現象
- 瀉血が始まりである
- 失敗や欠陥にかかわる情報が放置されたり曲解されたりして、進歩につながらない現象や状態を指す。逆に「オープン・ループ」では、失敗は適切に対処され、学習の機会や進化がもたらされる
- フィードバックは道を示す「明かり」である
- 我々が目にする成功は全体のごく一部にすぎない。画期的な理論も、驚くほど安全な航空機も、本物のプロが見せる妙技も、みな氷山の一角だ。しかしその成功の下には巨大な失敗の山が眠っていることを、我々は忘れてはならない。
- 「組織文化の壁」が失敗の報告を阻む
- バージニア・メイソン病院の事例からわかるのは、失敗から学ぶにはふたつの要素が不可欠だということだ。1つ目はシステム。失敗は、いわば理想(したいことや起こってほしいこと)と現実(実際に起こったこと)とのギャップだ。最先端の組織は常にこのギャップを埋める努力をしているが、そのためには学習チャンスを最大限に活かすシステム作りが欠かせない。2つ目に不可欠な要素はスタッフだ。どんなにすばらしいシステムを導入しても、中で働くスタッフからの情報提供がなければ何も始まらない。バージニア・メイソン病院でも、最初は報告がほぼなかった。非難されることや自分の評判を落とすことを、スタッフが恐れていたからだ。しかし不運な事故を経て、組織のマインドセットが変わった。システムは機能し始め、驚くべき成果をもたらすようになった。
- ミスを犯す可能性が高ければ高いほど失敗から学ぶことは重要なのだ
- ヒューマンエラー(人的ミス)分野における世界的権威の1人、ジェームズ・リーズンは言う。「これこそパラドックスの端的な例だ。医療業界は本質的にミスを招きやすい構造になっている。しかし医療スタッフは失敗を不名誉なものと決め、エラーマネジメント(ミスの防止・発見・処理)の訓練をほとんど、あるいは一切受けていない
第2章 人はウソを 隠すのではなく 信じ込む
- カルト信者が予言を外した教祖にとった意外な行動
- フェスティンガーは名著『予言がはずれるとき―この世の破滅を予知した現代のある集団を解明する』で、信者たちのふるまいを「失敗の再定義」だと指摘した(15)。実際、信者たちは予言が外れたあとこう主張した。「神のような存在は、私たちの信心深さにいたく感心して、この世界に第2のチャンスを与えてくれた!(筆者がわずかに言い換えている)」「私達が世界を救ったのだ!」中には集団を抜けるどころか、さらにメンバーを集めようと布教活動に出る者もいた。フェスティンガーはこう書いている。「一晩中居間に座っていたその小さな集団は、自分たちが予言を流布したからこそ、神が世界を破滅から救ってくれたと考えた」。信者たちは失敗に動揺するどころか、「歓喜に酔いしれていた」のである
- 多くの場合、人は自分の信念と相反する事実を突き付けられると、自分の過ちを認めるよりも、事実の解釈を変えてしまう。次から次へと都合のいい言い訳をして、自分を正当化してしまうのだ。ときには事実を完全に無視してしまうことすらある。
- なぜ、こんなことが起こるのか?カギとなるのは「認知的不協和」だ。これはフェスティンガーが提唱した概念で、自分の信念と事実とが矛盾している状態、あるいはその矛盾によって生じる不快感やストレス状態を指す。人はたいてい、自分は頭が良くて筋の通った人間だと思っている。自分の判断は正しくて、簡単にだまされたりしないと信じている。だからこそ、その信念に反する事実が出てきたときに、自尊心が脅され、おかしなことになってしまう。問題が深刻な場合はとくにそうだ。矛盾が大きすぎて心の中で収拾がつかず、苦痛を感じる
- そんな状態に陥ったときの解決策はふたつだ。1つ目は、自分の信念が間違っていたと認める方法。しかしこれが難しい。理由は簡単、怖いのだ。自分は思っていたほど有能ではなかったと認めることが。そこで出てくるのが2つ目の解決策、否定だ。事実をあるがままに受け入れず、自分に都合のいい解釈を付ける。あるいは事実を完全に無視したり、忘れたりしてしまう。そうすれば、信念を貫き通せる。ほら私は正しかった!だまされてなんかいない!
- 人は自分の信念にしがみつけばしがみつくほど、相反する事実を歪めてしまう
- 過去は「事後的」に編集される
- 皮肉なことに、幹部クラスに上がるほど、自身の完璧主義を詭弁で補おうとする傾向が強くなる。その中でも、通常一番ひどいのがCEOだ。たとえば我々が調査したある組織のCEOは、45分間の聞き取りを通してずっと、会社が被った災難がいかに自分以外の人間によりもたらされたかを並べ立てた。矛先を向けられたのは顧客、監査役、政府、さらに身内である自社の重役たち。しかし自身の過失については一切言及がなかった。
- 「2、4、6」という3つの数字を見たら、どんなルールで並んでいると思うか?
- 進んで失敗する意志がない限り、このルールを見つけ出す可能性はまずない。必要なのは、自分の仮説に反する数列で検証することだ。しかしほとんどの人は間違った仮説から抜け出せない。実際、この実験に参加した大学生は、好きなだけ数列を答えてもいいと言われていたが、実際に正解のルールを見つけ出した学生は全体の10%に満たなかった。間違った仮説から抜け出す唯一の方法は、失敗をすることだ。ただ、こんなものは失敗でも何でもなく、日常茶飯事とすら言える。失敗をすることは、正解を導き出すのに一番手っ取り早い方法というばかりでなく、今回のように唯一の方法であることも珍しくない
- 記憶は「編集」可能である
- タイソンとブッシュ大統領の発言
第3章 「単純化の罠」から脱出せよ
- 考えるな、間違えろ
- 失敗から学ぶために欠かせない要素の1つ目、適切なシステムについて、具体的なプロセスまで掘り下げていこう。失敗からうまく学んでいる組織は、どこも例外なく、ある特定のプロセスを実践している。実はこのプロセスは、自然界、科学界、人工知能の世界などさまざまな領域で見られるため、分析の素材には事欠かない。
- 累積淘汰は何らかの「記憶システム」があれば機能するというのがこの実験から得られる示唆だ。つまり世代ごとに行った選択を記憶し、それを次世代へ、また次の世代へと引き継いでいく。自然界ではこのプロセスがあまりにうまく機能しているせいか一部の人々は「インテリジェント・デザイン」という錯覚まで抱くようになった。実際には自然のプロセスにすぎないのに、「動物の造形などの進化は、知性ある何者かによって創造(デザイン)された」と考える人々が存在するのだ。
- 自由市場のシステムは、失敗が多くても機能するのではなく、失敗が多いからこそうまくいくのだ。
- つまるところ、テクノロジーの進歩の裏には、論理的知識と実践的知識の両方の存在があって、それぞれが複雑に交差し合いながら前進を支えている。
- 我々は自分の周りで起こる出来事に絶えず意味を見出そうとするため、そこから必然的に講釈の誤りが生まれる。人がもっともらしいと感じる説はシンプルだ。抽象的ではなく具体的で、偶然よりも誰かの才能・愚かさ・意図などが大きな役割を担う。起こらなかった無数の物事より、ほんの2、3の目を引く現象に目を奪われてしまう。とにかく間近に起こった特徴的な出来事なら何でも、後講釈の題材になり得るのだ(8)。講釈の誤りは、進化のプロセスを妨げる。
- 完璧主義の罠に陥る要因はふたつの誤解にある。1つ目は、ベッドルームでひたすら考え抜けば最適解を得られるという誤解。この誤解にとらわれると、決して自分の仮説を実社会でテストしようとしなくなる。ボトムアップよりトップダウンの方式に重点を置くと生まれやすい問題だ。
- 2つ目は、失敗への恐怖。ここまで見てきたように、人は自分の失敗を見つけると、隠したり、はじめからなかったことにしたりする。しかし完璧主義者はいろんな意味でさらに極端だ。失敗をなくそうと頭の中で考え続け、気づけば「今欠陥を見つけてももう手遅れ」という状態になっている。これが「クローズド・ループ現象」である。失敗への恐怖から 閉ざされた空間の中で行動を繰り返し、決して外に出て行こうとしない。
- しかしスインマーンのとった方法は違った。彼は実店舗の靴屋をあちこちまわって、在庫品の写真を撮らせてほしいと頼んだ。そして写真を自分の試作サイトに掲載させてもらうお礼に、注文が入ったら必ずその店で定価にて買うと約束した。この方法で、彼はいわゆる「 価値仮説」を検証することができた。「靴の通販サイトには価値があるはずだ」という自分の仮説を実際に試すことができたのである。結果は、「価値あり」だった。
- 人は自分が深く信じていたことを否定する証拠を突き付けられると、考えを改めるどころか強い拒否反応を示し、ときにその証拠を提示した人物を攻撃しさえする。
第4章 難問はまず切り刻め
- 「小さな 改善 の積み重ねですよ」彼の答えは明快だった。「大きなゴールを小さく分解して、一つひとつ改善して積み重ねていけば、大きく前進できるんです。
- これが、マージナル・ゲインの一例だ。マージナル・ゲインは、今や新世代の開発経済学者の中心的なアプローチになっており、この 10 年で国際開発援助のあり方が大きく変わった。彼らは壮大な構想を立てるより、小さな改善点を探す。 RCTを批判する人々の多くは、人間を「実験台」にすることを懸念している。介入群は○○を得て、対照群は何も得ないというやり方はフェアなのか? 全員が治療や利益を受けるべきではないのか? だが、ちょっと考え方を変えてみてほしい。○○に本当に効果があるかどうか、それがわからないときは、RCTを実施して答えを見つけ出すほかない。万遍なく実施することが倫理的だとは限らない。答えのないままに進み続けても、結局誰も助けることはできないのだ。
- ホットドッグの早食いに使えるぐらいだから、マージナル・ゲインのアプローチは、ほぼ何にでも使えるはずだ。
第5章 「犯人探し」バイアスとの闘い
- どんなミスも、あらゆる角度から検討して初めて、相反する出来事の表と裏を覗き見ることができる。その過程を経てこそ、問題の真の原因を理解できる。どんな間違いがあったのか知らないままで、状況を正すことなど不可能なのだ
- 懲罰は本当に人を勤勉にするのか
- 非難合戦は、このような考えをもとに広まっているのかもしれない。ハーバード・ビジネス・スクールのある調査によれば、社内で起こったミスのうち、企業幹部が本当に非難に値すると考えているものは全体の2~5%にすぎないことがわかった。しかし実際は、 70 ~ 90%が非難すべきものとして処理されている。
- 今日の経営学では、「懲罰文化」と「放任文化」を対比することが多い。この相反するふたつの文化のバランスをとるのが我々の課題だ。責任を追及しすぎればみな口をつぐんでしまい、責任を問わなければ怠慢になる。しかし、本当にそうだろうか?
- 我々の脳には 一番単純で一番直感的な結論を出す傾向がある。この傾向には「根本的な帰属の誤り」という堅苦しい名前がついている。簡単に説明するとすれば「人の行動の原因を性格的な要因に求め、状況的な要因を軽視する傾向」だ。
第6章 究極の成果をもたらすマインドセット
- モーザーが知りたかったのは、被験者が何か失敗したときに、脳内でどんな反応が起こるかだ。中でも注目すべきはふたつの脳信号だった。ひとつは「エラー関連陰性電位(ERN)」。これは脳の前帯状皮質に生じる信号で、エラーを検出する機能に関連している。自分の失敗に気づいたあと 50 ミリ秒ほどで、自動的に現れる反応だ。もうひとつは「エラー陽性電位(Pe)」。こちらは失敗の200~500ミリ秒後に生じる信号で、自分が犯した間違いに 意識的に 着目するときに現れる反応だ。
- 失敗から学べる人と学べない人の違いは、突き詰めて言えば、 失敗の受け止め方 の違いだ。成長型マインドセットの人は、失敗を自分の力を伸ばす上で欠かせないものとしてごく自然に受け止めている。
- このように、マインドセットの違いで人や組織の成長に差が出た例はいくらでもある。我々の可能性を解き放つ手助けをしてくれるのは、成長型マインドセットだ。成長型マインドセットで物事を考えれば、失敗から学べる。失敗から学べれば、進化がもたらされる。そしてこの進化のメカニズムこそが、人や組織の成長を加速するのだ。
終章 失敗と人類の進化
- 宗教的な世界観は「固定」されていた。何十年どころか何百年も科学の進歩が滞っていたのはそのためだ。 失敗が深刻な認知的不協和を生む医療業界も、これと似ている。問題の背景が複雑なことに加えて、ベテラン医師に対する全能の神のような扱いが、学習を困難にしている要因のひとつであることは間違いない。ベテラン医師が、自分の失敗を受け入れられない、あるいは失敗が起こり得ることさえ認められない心理状態は、ときに「 神コンプレックス」と呼ばれる。
- まず何よりも重要なのは、失敗に対する考え方に革命を起こすことだ。これまで何世紀にもわたって、失敗はまるで汚らわしいもののように扱われてきた。
- 自分の考えや行動が間違っていると指摘されるほどありがたいものはない。そのおかげで、間違いが大きければ大きいほど、大きな進歩を遂げられるのだから。批判を歓迎し、それに対して行動を起こす者は、友情よりもそうした指摘を尊ぶと言っていい。己の地位に固執して批判を拒絶する者に成長は訪れない。我々の社会に大きな転換が起こり、ポパー的な反証主義で批判をとらえる姿勢が広く浸透すれば、私生活にも、社会生活にも革命が起こり得る。もちろん、仕事をする上でも例外ではない
- 失敗ありきで考えよ
- 近年注目を浴びている「失敗ありき」のツールがもうひとつある。著名な心理学者ゲイリー・クラインが提唱した「 事前検死(pre-mortem)」だ。これは「検死(post-mortem)」をもじった造語で、プロジェクトが終わったあとではなく、実施前に行う検証を指す。あらかじめプロジェクトが失敗した状態を想定し、「なぜうまくいかなかったのか?」をチームで事前検証していくのだ。失敗していないうちからすでに失敗を想定し学ぼうとする、まさに究極の「フェイルファスト」手法と言える。チームのメンバーは、プロジェクトに対して否定的だと受け止められることを恐れず、懸念事項をオープンに話し合うことができる。
- 事前検死は非常にシンプルな手法だ。まずチームのリーダー(プロジェクトの責任者とは別の人物)は、メンバー全員に「プロジェクトが大失敗しました」と告げる。メンバーは次の数分間で、失敗の理由をできるだけ書き出さなければならない。その後、プロジェクトの責任者から順に、理由をひとつずつ発表していく。それを 理由がなくなるまで行う。
- マージナルゲイン、リーン・スタートアップ、RCT、事前検死……本書では、進化のメカニズムに秘められた無限の力を活かす様々な手法を検討してきた。状況に応じて活用し、成長型マインドセットを持ち続ければ、どこまでも可能性が広がる進化のプロセスを力強く歩んでいけるだろ